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我的爱是订书机

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   三月二十六日から四月七日まで。
   春休み――である。
   キスショット?アセロラオリオン?ハートアンダーブレード――后に仆は、彼女のような存在を怪异《かいい》と呼ぶのだと知ることになる。
   怪异。
   化物。
   人外者。
   ならばやはり、仆があのとき、あの场所で、そういう风に彼女を観测してしまったことが――仆が地狱を経験した、最大の要因なのだと思う。
   観测者としての仆は、はなはだ不适合で。
   そしてやっぱり、间抜けだった。
   彼女のことを话そうと思えば、それは必然的に自分の间抜けさをあますところなく晒《さら》さなければならないのだけれど――ともすればその行为は自虐的に见えるかもしれないけれど、それでも仆は、やっぱりあの吸血鬼のことを、语らなければならないのだろう。
   彼女から受けた伤の物语を。
   仆が彼女を伤つけた物语を。
   语らなければならないのだろう。
   语る义务があるのだろう。
   それが仆の责任だ。
   ……前置きが随分《ずいぶん》と长くなったように思うが、これについては勘弁《かんべん》を愿いたいところである――责任だ何だと伟そうに言ったところで、所诠《しょせん》それは间抜けな道化《どうけ》の责任だ。どこで挫《くじ》けるのかわかったものではない――弱気なことを言ってしまえば、正直なところ、仆にはまるで、この物语を话し终える自信がない。だから仆はこんな风にうだうだと、もっともらしい前振りを并べているのだ。
   それもさすがに限界で、それにいざ语り始めてしまえばその后はもう石が坂道を転がるがごとしで、途中で止めるほうが难しいだろうけれど、しかし念のため、万が一、仆の覚悟が足りなかったときのために、この物语の结末をあらかじめ、最初に宣言しておこうと思う。
   吸血鬼にまつわるこの物语はバッドエンドだ。
   みんなが不幸になることで终わりを迎える。
   それだって地狱の终わりというだけであって、一连の事件はやっぱりまだ终わっていないのかもしれないし、いずれにしたところで、仆の彼女に対する责任は、一生かかっても终わることがないのだけれど。


61楼2009-07-12 21:46
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    002
       友达を作ると、人间强度が下がるから。
       确か、そんなことを言ったように思う。
       いつのことかと思い出せば、それは春休みの直前である三月二十五日の土曜日、终业式の日の午后のことだった――そのとき仆は、通っている私立|直江津《なおえつ》高校の付近を、漫然《まんぜん》とそぞろ歩いていた。
       部活动に一切《いっさい》所属していない仆のことである。
       本当に何の用もなく、漫然とそぞろ歩いていたのだ。
       明日から春休みということで浮かれていたのかというと、决してそういうわけではなかった。
       春休みに限らず、夏休みだったり冬休みだったり、あるいはゴールデンウィークだったり、そういうまとまった休日というのは、基本的に学生にとって嬉《うれ》しいもののはずで、仆だってやはり基本的には三学期が终わって生活が春休みに突入したことは嬉しいのだけれど、しかし同时に、长期|休暇《きゅうか》というのは仆にとって暇《ひま》を持て余してしまう期间であることも事実なのだった。
       特に春休みは宿题もないから。
       何となく家に居づらい。
       そんなわけで――终业式が终わり、教室で通知表を受け取って、ではまた新学期にとクラスが解散になったところで、一直线に家に帰ることにためらいを忆《おぽ》え、かといって他に行くところもなく、学校付近を不审者よろしくうろうろしているというわけである。
       特に目的はない。
       暇|溃《つぶ》しというよりは时间溃しだ。
       事実、仆は自転车通学なのだが、自転车はまだ校内の自転车置き场に停めたままだ――これはまだ帰るつもりはないという意思の表れでもあった。
       散歩と言えば散歩だが。
       勿论、仆は健康志向の人间ではない。
       时间溃しなら学校の中で溃せばよさそうなものだったが、しかし家に居づらいのと同じで、校内も校内で居づらいものがあるのだった――终业式の午后とは言え、部活动をやっている人间の数は多い。
       顽张《がんば》っている人间は、苦手だ。
       まあ、うちの学校はそこまで部活动に热心なほうではないけれど。例外は去年何かの间违いで入学してきた怪物みたいな大型ルーキーが入部したという女子バスケットボール部くらいのもので、あとは大体、运动部であっても『参加することに意义がある』といった感じなのだ。
       そんなわけで、というほどのわけもないのだが、何となく学校の周囲をぐるぐると旋回するように歩いた后、仆はしかし、さすがにそろそろ校内に自転车を取りに戻って、家に帰るべきかと考え始めていたのだが――お腹《なか》もすいたし――そこで仆は、意外な人物を见かけたのだった。
       春休みなので、自分の所属する学年を二年生と言うべきなのか三年生と言うべきなのか、正直なところ微妙なのだけれど、とにかく、同じ学年の有名人――羽川翼《はねかわつばさ》が、仆の正面から、歩いてきていたのである。
       両手を头の后ろに回して、一瞬、何をしているのかと思ったが、どうやら三つ编みの位置を调整しているらしい。长めの髪を、彼女は后ろで一本の三つ编みにまとめているのだ。三つ编み自体が最近は珍《めずら》しいのだが、その上で彼女は前髪を一直线に揃《そろ》えている。
       制服姿。
       全く改造していない、膝下《ひざした》十センチのスカート。
       黒いスカーフ。
       ブラウスの上に、校则指定のスクールセーター。
    


    62楼2009-07-12 21:53
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         同じく校则指定の白い靴下《くつした》にスクールシューズ。
         いかにも优等生といった风情《ふぜい》だ。
         そして実际、彼女は优等生である。
         优等生の中の优等生で、委员长の中の委员长。
         一年生のときも二年生のときも、仆は彼女とクラスが违うし、だから向こうは仆のことなど知りもしないだろうけれど、しかし仆のほうは、彼女の委员长ぶりというものを伝え闻いていた。
         噂话《うわさばなし》に疎《うと》い仆が伝え闻いていたというのだから、话半分だとしても、よっぽどの委员长ぶりだったのだろう。
         きっと三年生になっても委员长をするに违いない。
         そして成绩优秀。
         おかしな表现ではあるが、异常なほどに头がいいらしい。五教科六科目で六百点満点を取るなんて朝饭前。そりゃ、全员でテストを受ければ、谁かが一位になるのは谁かがビリになるくらいの当然|至极《しごく》のことなのだけれど、しかし羽川翼は、二年间、常にトップの成绩を维持しているのだという。
         直江津高校という私立の进学校に入学したまではいいものの、あっという间に落ちこぼれていっという间に落ちぶれてしまった仆などとは云泥《うんでい》の差と言うか、ある意味対极的な存在である。
         ふうむ。
         と、仆は一瞬、彼女に気を取られてしまう。
         やはりクラスが违うので、知ってはいても、见かけることはほとんどないのだが――そんな彼女を、终业式が终わった今、こうして偶然见かけたということに対して、ちょっとばかり惊いたのだ。
         まあ。
         偶然であり、たまたまだ。
         どうやら彼女は校门から出てきたところらしいが、よくよく考えてみれば仆がずっと学校のそばをうろうろしていたのだから、见かけて不思议というほどでもないだろう。
         羽川のほうは、当然、仆に気付きもしない。
         三つ编みの位置の修正に梦中になっていて、仆のことなど视界に入っていないっぽい――まあたとえ入っていたとしても、仆と羽川は、会釈《えしゃく》をするような仲でさえないのだ。
         はっはっは。
         むしろ羽川みたいな优等生タイプは、仆みたいなちゃらんぽらんに生きている人间が、きっと大嫌いだろうからな。
         真面目《まじめ》な彼女に、不真面目な仆。
         知られていないほうがいいのだ。
         このまますれ违うとしよう。
         だからといって逃げる必要もないしな。
         仆のほうも、まるで彼女に気付いていないかのような素振《そぶ》りで、ペースを乱さずに、歩き続けた――あと、お互いに五歩ほど歩けば无事にすれ违うという位置関系になった、そのときである。
         仆は。
         その瞬间のことを、多分、一生忘れないだろう。
         何の前触れもなく――一阵《いちじん》の风が吹いたのだ。
      「あ」
         と。
         仆は思わず、声を漏《も》らしてしまった。
         羽川のやや长めの、膝下十センチのプリーツスカートの前面が、思い切りめくれあがってしまったのだ。
         普通ならば、彼女はすぐに、反射神経でそれを押さえ込んだはずだったろう――しかしタイミングの悪いことに、そのとき彼女の両手は头の后ろに回され、三つ编みの位置を直すという复雑な作业をしている最中《さなか》である。仆の立ち位置から见れば、まるで后头部で手を组んで、あたかも軽く気取ったポーズを取っているかのようにも见えてしまう、そんな姿势になっていた。
      


      63楼2009-07-12 21:53
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           そんな状态でスカートがめくれたのだ。
           中身は丸见えとなった。
           决して派手ではない――しかし、惹《ひ》きつけられた眼をそこから逸《そ》らすことを决して许さないような、上品な下着だった。
           清楚《せいそ》な纯白色である。
           际《きわ》どい形をしているというわけでもない、布面积の数値はむしろ大きいほうだろう。幅も広く、生地《きじ》も厚いそれである――断じて扇情的《せんじょうてき》ではないし、そういう意味では色気に欠けていると言っていいのかもしれない。
           しかしそのあまりの白さに仆は眩《まぶ》しささえ忆えた。
           そして决して地味ではない。
           センターの部分には、白地に白い糸で、复雑な模様の刺繍《ししゅう》が施《ほどこ》されていた――恐らく花をあしらっているのだろう。左右対称のその模様は、下着全体のバランスを绝妙に彩《いろど》っている。そして刺繍の中央上部に、小さなリボンが饰られていた。
           そのリボンで全体の印象が更《さら》に引き缔まる。
           更にその小さなリボンのすぐ上には、彼女の下腹と、可爱《かわい》らしいおへそが见えていた。そんな部位までがあられもなくあらわになるほどに、スカートは大胆にめくれあがってしまっていたのだ。スカートにインされていたブラウスの裾《すそ》までが、しっかりと観察できたほどである。ブラウスの裾がかように扇情的に见えることがあろうとは、仆はこれまで思いもしなかった。
           また、スカートの裏地というのが、仆にとっては新鲜だった。よく见かけておきながら不可侵《ふかしん》のように未知の存在であった、スカートという衣类の构造を、仆は初めて、理解したように思う。
           何より、めくれあがったのがスカートの前面のみというのが素晴らしかった。
           纯白色の下着、それにその下着と竞《きそ》うかのような色の白さを夸る、それなりにむっちりとした彼女の太ももは、绀《こん》色のスカートが背景となることにより、コントラストが强调されて、しっかりと际立つ。一般女子に比べて长めのスカートは、こうなってしまえば优美な芸术品を际立たせるための暗幕のようですらあった。プリーツスカートのひださえも、まるでビロードみたいだった。
           やはり、后头部で手を组むというそのポーズもあいまって、まるで仆に自慢《じまん》の下着を见せつけているかのような――结果として、彼女はそんな有様《ありさま》になった。
           彼女。
           羽川翼は、结局、身じろぎひとつしなかった。
           あっけにとられてしまったのだろう。
           そのポーズのまま、スカートがめくれあがるに任《まか》せ、表情までも固まったままだった。
           実际は一秒にも満たない时间だったと思う。
           しかし、仆にとっては一时间にも匹敌《ひってき》した――いや、このまま仆の人生は终わりを迎えてしまうのかもしれないという错覚さえ、仆は忆えた。决して大袈裟《おおげさ》でなく、仆は一瞬の间に、一生を経験したのである。
           眼球の表面が乾いてしまうほど。
           仆は彼女の下半身に、眼を夺われた。
           いや、勿论わかっている――こういう场合は、そっと眼を逸らすのが女子に対するマナーだということくらい、勿论わかっている。
           普段なら仆だってそうしただろう。
           仆は阶段を升るとき、もしも前に女子がいたなら、自分の足元だけを见るように心がけているくらいだ。
        


        64楼2009-07-12 21:53
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             しかし、まったく心の准备のないところに突然舞い降りたこのような幸福に対して、咄嗟《とっさ》にそのように振る舞えるほど、仆は男性として完成されてはいなかった。
             网膜《もうまく》に羽川のその姿が焼きつくようだった。
             多分、今仆が死んで、そのあと眼球が谁かに移植されたら、その谁かは残りの一生、羽川の下着の幻覚に袭われることになるだろう。
             それほどに冲撃的だった。
             优等生の下着というのは。
          「………………」
             いや。
             どれだけ优等生のパンツを描写するのだ。
             さすがに仆は我に返ったが、そのときにはもう、羽川のスカートは元の位置へと戻っていた。
             やはり一瞬のことだったのだ。
             そして羽川は。
             あっけにとられた表情のままで――仆のほうを见ていた。
             凝视《ぎょうし》していた。
          「……えっと」
             うわあ。
             対応に困る。
             こういうとき、どうすればいいんだろう。
          「み……见てないよ?」
             明らかな嘘《うそ》をついてみた。
             しかし、羽川は、仆のその明らかな嘘には反応せずにじっと仆を凝视したまま、どうやら三つ编みの调整は终わったらしく、両手を下ろして、今更のように、スカートの前面をぱたぱたとはたいた。
             本当に今更だが。
             そして、一瞬だけ仆から目を逸らして天を仰《あお》ぐようにし、それから改めて仆を见て、
          「えっヘへ」
             と。
             はにかんだ。
             ……おお。
             ここで笑うのか。
             器《うつわ》のでかい女だ――さすが委员长の中の委员长。
          「なんて言うか、さあ」
             とん、とん、とん、と。
             両足を揃えたまま、膝のクッションで跳ねるようにして、羽川は仆の方へと寄ってきた。
             十歩あった互いの距离を、三歩の距离まで诘めてくる。
             ちょっと近いくらいの距离だ。
          「见られたくないものを隠すにしては、スカートって、どう考えてもセキュリティ低いよね。やっぱり、スパッツっていうファイアウォールが必要なのかな?」
          「さ、さあ……」
             そんな比喩《ひゆ》で话されても困る。
             じゃあ、仆はウイルスかよ。
             彼女にとって幸いなことに――なのかどうかはよくわからないけれど、直江津高校の生徒も含めて、周囲に人はいない。
             仆と羽川だけだ。
             つまり彼女のパンツを见たのは仆だけなのだ。
             その事実にちょっとした优越感さえ忆えるが、しかし、そんなことはともかく。
          「ちょつと前にマーフィーの法则ってはやったけどさ。そこに付け加えるべきかもね。后ろに手を回しているときに限って、前向きにスカートがまくれちゃう、とか――后ろは普通に警戒するんだけれど、前って意外と盲点だったり」
          「ああ……そうかもね」
             知らない。
             と言うか、気まずい。
             羽川にそんなつもりがあるのかどうかはともかく、远回しに责められている気分だ――とは言え、あれだけじっくりと见ておいて今更说得力に欠けるかもしれないが、女子にとって『见られたくないもの』を、わざとではないとは言え目撃してしまったという事実に、仆が罪悪感を忆えているのも确かなのである。
             しかも、こいつは、こんなにこやかに……。
          


          65楼2009-07-12 21:53
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            「…………」
               フルネームも汉字も、完璧に押さえられていた。
               マジかよ……。
               名前と颜が一致しているってことは、もしもこいつがデスノート持ってたら、仆、杀されてるじゃん……。
               いや、それは仆の侧も同じだけれど。
            「お前は――羽川、だ」
               仕返しというわけでも、意地を张ったというわけでもないが、しかし仆はあえて彼女の言叶には颔《うなず》かず、そう言い返した。
            「羽川翼、だ」
            「わお」
               羽川は、露骨《ろこつ》に惊いたみたいな表情を见せる。
            「すごい。私なんかの名前、知ってるなんて」
            「二年生一学期の期末テストで、保健体育及び芸术科目まで含めた全教科で、穴埋め问题一问しか间违わなかった、羽川翼」
            「え?   ちょっと……やだもう、なんでそんなことまで知ってるの?」
               更に惊く羽川。
               どうやら演技ではないらしい。
            「あれ……?   ひょっとして阿良々木くんて、私のストーカーだったりする?   あっはー、それはいくらなんでも被害|妄想《もうそう》强过ぎかな?」
            「……别に」
               どうもこいつ――有名人の自覚がないようだ。
               自分のことを『普通』だと思い込んでいる。
               ちょっと真面目なだけが取《と》り柄《え》の普通の女の子、か?
               その上で、仆なんかのことを有名人扱いしてくるのだから、性质《たち》が悪い――まあ仆も、落ちこぼれとしては、それなりに认识されているということなのだろうけれど。
               しかしだからといって、それを指摘《してき》しても意味なんかないか……。
               仆は适当に答えておくことにした。
            「宇宙人の友达に闻いたんだよ」
            「え?   阿良々木くん、友达いるの?」
            「宇宙人がいるかどうかを先に讯け!」
               ほぼ初対面の相手に突っ込みを入れてしまった。
               しかし、悪気はないにしたって酷《ひど》い物言いである。
            「いや、その」
               さすがにそれを自覚したらしく、羽川はばつが悪そうな感じに言う。
            「阿良々木くんって、いつも一人で、孤高《ここう》に暮らしているみたいなイメージがあったから」
            「どこの格好《かっこう》いい奴だよ、それ」
               一応仆のことを知っちゃあいるようだが。
               やっぱり、よくは知らないようだ。
            「まあ、友达がいないのはお前の言う通りだ。そんな友达がいない奴にも知られているほど、お前は有名人だってことだよ」
            「ちょっと、やめてよ」
               羽川はここで、少し嫌そうにした。
               スカートの中身をあれだけ大胆に晒した直后も、照れ笑いひとつで済ませた女が、である。
            「そういう冗谈は、あまり好きじゃないの。からかわないでちょうだい」
            「……あっそ」
               反论すると议论になりそうだったので、仆はそう颔いておいた。
               やれやれ。
               校门を前にした横断歩道が赤信号だったので、仆はそこで足を止めた――羽川もその横に并ぶ。
               …………。
               こいつ、なんでついて来るんだ?
               学校に忘れ物でもしたのか?
            「ねえ、阿良々木くん」
               考えていると。
               羽川のほうから、そんなことを言い出した。
            「阿良々木くんは、吸血鬼って信じる?」
            「…………」
               何を言い出すんだこいつは、と思う。
               そして次の瞬间に、思い至る。
            


            67楼2009-07-12 21:53
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                 ああ、やっぱりこいつ、平然を装ってはいるものの、仆にパンツを见られたのが耻ずかしかったのだろう。
                 当たり前のことだが。
                 仆は决して有名人ではないが、羽川が仆のことを知っていたのは确かだ――そして、どうも仆の交友関系(友达がいないこと)まで把握している。
                 多分、あまりいい噂でない噂を闻いているのだろう。
                 ならば优等生として、仆に下着をまじまじと観察……いや、偶然见られてしまったことを、ちょっとした失态ととらえていてもおかしくはない。
                 だから、そのフォローをするために、こうして仆を追ってきたのだろう。
                 パンツを见られてすぐ别れるのではなく、こうして追ってきて、话を続けることで、记忆の上书きを目论《もくろ》んでいるに违いない。
                 ふっ。
                 甘いな、优等生。
                 吸血鬼とか、奇抜《きばつ》な话题を振ってきたところで、仆の记忆は消えない。
              「吸血鬼がどうかしたのか?」
                 まあ、それでも、それで彼女の気が済むのならと、仆は羽川が振ってきた话题に乗ることにした。パンツを见せてもらった代偿《だいしょう》として考えるなら、益体《やくたい》もない话にちょっとだけ付き合ってあげるくらいのことは、お安い御用だ。
              「いや、最近ね、ちょっとした噂になってるんだけど。今、この町に吸血鬼がいるって。だから夜とか、一人で出歩いちゃ駄目《だめ》だって」
              「暧昧《あいまい》な……しかも、信凭性《しんぴょうせい》のない噂だな」
                 仆は正直な感想を漏らした。
              「なんでこんな田舎町《いなかまち》に吸血鬼がいるんだよ」
              「さあ」
              「吸血鬼って、海外の妖怪《ようかい》だろう」
              「妖怪とは违うと思うけれど」
              「吸血鬼が相手なら、一人で出歩こうが十人で连れ立って歩こうが、大して変わらないと思うけどな」
              「それはそうね」
                 あはは、と羽川は笑った。
                 快活《かいかつ》な笑い方だ。
                 ……なんか、イメージ违うな。
                 さっきから、どうも违和感だ。
                 优等生だとか、委员长の中の委员长だとか言うから、もっとお高くとまったキャラクターを想像していたのだが。
                 むしろ、妙に亲しげだ。
              「けど、色々と目撃证言があったりするのよ」
              「目撃证言?   面白い。だったらその金さんとやらを连れてきてもらおうじゃないか」
              「いや、金さんとやらじゃないんだけれど」
                 女子の间では、と、羽川は言う。
              「うちの学校の女子だけじゃなくて――この辺の学校に通っている女子の间では、有名な话。て言うか、女の子の间だけではやってる噂なんだけど」
              「女の子だけの噂って……どっかで闻いたような话だな」
                 しかし、吸血鬼ねえ。
                 よく根付いたなあ、そんな噂。
              「金髪の、すごく绮丽《きれい》な女の人で――背筋が冻《こお》るくらい、冷たい眼をした吸血鬼なんだってさ」
              「ディテールはえらく具体的だな。しかし、それだけじゃ吸血鬼だってわからないだろ。金髪だから目立ってるだけの、一般人じゃないのか?」
                 何せ郊外の田舎町である。
                 地方の、外《はず》れの町。
                 茶髪の人间さえ见かけないのだ。
              「でも」
                 羽川は言う。
              「街灯に照らされて、金髪は眩しいくらいだったのに――影がなかったって」
              「ああ……」
                 吸血鬼。
                 よく闻く、今となっては古びた感のある単语ではあるが、仆もそう详しいわけではない。しかし、言われてみれば闻いたことがある――吸血鬼には影ができないのだ。
              


              68楼2009-07-12 21:53
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                   太阳の光が苦手だから、だっけな。
                   しかし、まあ夜のことだし。
                   街灯に照らされていたと言っても、见间违いということもあるだろう――大体、街灯という舞台装置が、いかにも嘘っぽくないか?
                   嘘っぽいというか、安っぽいというか。
                「まあね」
                   仆がそんな无粋《ぶすい》なことを言っても、羽川は别に気分を害するでもなく、むしろそんな风に同意を示した。
                   话し上手だし、闻き上手だ。
                「うん、马鹿马鹿《ばかばか》しい噂だと、私も思う。けど、その噂のお阴で女の子が夜とかに一人で出歩かなくなるっていうのは、治安的にはいい话だよね」
                「まあ、そりゃそうだ」
                「でも、私はね」
                   声のトーンを若干《じゃっかん》落として言う羽川。
                「吸血鬼がいるなら、会ってみたいって思うのよ」
                「……なんで?」
                   どうも。
                   仆の予测は间违っていたのかもしれないと思う。
                   てっきり、パンツを见られた记忆を消去するために、こんな益体もない话をしているのだと思っていたけれど――しかしそれにしては、羽川の语り口には、ちょっと热が入り过ぎている。
                   大体、『女の子だけの噂』を、学ランを着た男子であるところの仆に教えるというのも、考えてみればおかしな话だ。
                「血を吸われて、杀されちゃうんだぜ?」
                「まあ、杀されるのはやだけどさ。そうだね、会ってみたいっていうのは违うかも。でも、そういう――人よりも上位の存在、みたいなのがいたらいいなって」
                「人より上位って、神様とかか?」
                「别に神様じゃなくてもいいんだけど」
                   羽川は言叶を选ぶように、しばらく黙ったが、しかしやがて、
                「でないと、色々、报《むく》われないじゃない?」
                   と言った。
                   いつの间にか。
                   信号は青に変わっていた。
                   けれど、仆も羽川も动かない。
                   正直なところ。
                   仆には、羽川が何を言っているのかはおろか、羽川が何を言いたいのかさえ、全《まった》くわからなかった――话がまるで繋《つな》がっていないようにすら感じる。
                「いけない、いけない」
                   そんな仆の考えが表情に出てしまったのか、羽川は慌《あわ》てたように、そんなことを言い出した。
                「阿良々木くん、意外と话しやすい人なんだね。なんだか口が滑《すべ》って、ちょっとわけのわからないことを言っちゃったような気がするよ」
                「あ――ああ。いや、别にいいんだけど」
                「こんな话しやすい阿良々木くんに友达がいないなんて、おかしいね。何で友达、作らないの?」
                   率直《そっちょく》な问いだった。
                   多分、悪気はないのだろう。
                   そのくらいのことはわかる。
                   作らないんじゃなくて作れないんだ、と、ここで率直に答えるのも惮《はばか》られた。
                   だから――仆はそのとき、こう答えたのだ。
                「友达を作ると、人间强度が下がるから」
                「……え?」
                   羽川は――それに対して、きょとんとした表情を浮かべた。
                「ごめん、ちょっと意味がわからない」
                「いや……だから、なんかこう、だな」
                   やべえ。
                   格好いいこと言ってみたものの、后が続かねえ。
                「つまり、友达がいたら、友达のことを気にしなくちゃいけないだろ?   友达が伤ついたら自分も伤ついちゃうし、友达が悲しいと自分も悲しい。言ってみれば弱点が増えるってことだと思う。それは人间としての弱体化だ」
                


                69楼2009-07-12 21:53
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                  「……けど、友达が楽しんでいたら自分も楽しいし、友达が嬉しいと自分も嬉しいんだから、一概《いちがい》に弱くなってるわけじゃないんじゃないの?   弱点は増えるけれど、利点も増えるじゃない」
                  「いや」
                     仆は首を振る。
                  「友达が楽しんでいると羡《うらや》ましいし、友达が嬉しいと妬《ねた》ましい」
                  「……人间が小さい」
                     ずばり、羽川が言った。
                     ほっとけや。
                  「仮にお前の言う通りだとしても、それなら差し引き零《ゼロ》でどっちでも同じってことだろ。友达がいようがいまいが同じってことだ。いや、世の中には嫌なことのほうが多いんだから――结局、やっぱりマイナスなんじゃないのか?」
                  「ひねたこと言うなあ」
                     话しやすいって言ったの、撤回《てっかい》する。
                     羽川はそう言った。
                     期间限定过ぎる评価だった――まあいいだろう。
                     そういう误解は早めに解けるに越したことはない。
                  「仆はさ。植物になりたいんだよな」
                  「植物?」
                  「喋《しゃべ》らなくていいじゃん。歩かなくていいし」
                  「ふうん」
                     羽川はとりあえず、颔いてはくれた。
                  「でも、生物ではいたいんだね」
                  「ん?」
                  「そういうとき、普通は无机物になりたいって言うんだよ。石とか、鉄とか」
                     意外な指摘を受けた気がした。
                     植物になりたいと言ったのは、昔から考えている本音《ほんね》だったのだが、まさかそういう方向からの反论を受けるとは思わなかった。
                     ふうむ。
                     なるほどねえ――无机物か。
                     确かに、植物も生物だよな。
                  「私、これから図书馆に行こうと思うんだけど」
                  「うん?」
                  「阿良々木くんと话してる内に、図书馆に行きたくなっちゃった」
                  「…………」
                     どういう思考回路だ。
                     まあ、最终的に家に帰るとか言ってたし――特に定まった予定もなかったのだろう。时间があるのは仆と同じでも、时间溃しに学校の周りをうろうろするだけか、それとも図书馆に行くのか。
                     それが落ちこぼれと优等生をわける壁なのかもしれなかった。
                  「明日が日曜日で休馆日だから、今日のうちに行っておかないといけないんだ」
                  「ふうん」
                  「阿良々木くんも一绪に行く?」
                  「なんで」
                     仆は苦笑する。
                     図书馆。
                     この町にそんなものがあったことさえ知らなかった。
                  「図书馆で何するんだよ」
                  「そりゃ、勉强でしょう」
                  「そりゃって……」
                     今度は仆はたじろいだ。
                  「生憎《あいにく》、仆は宿题もない春休みにわざわざ自主的に勉强するほど、奇特《きとく》じゃないんだ」
                  「でも、来年はもう受験生だよ?」
                  「受験も何も……仆は卒业さえ危《あや》ぶまれてるんだ。もう何したって间に合わないよ。せいぜい、来年度は遅刻しないように顽张るだけだ」
                  「……ふうん」
                     羽川は――なんだかつまらなそうに、そう呟《つぶや》いた。
                     一绪に行きたかったわけでもないだろうに。
                     しかし、羽川はそれ以上、何も言わない。
                     なんだかなあ。
                     お高くとまったキャラクターでこそなかったものの、よくわからない奴だ。
                     信号は、赤と青を缲り返している。
                     今は赤だった。
                     次に青に変わったときが别れ时だな、と仆は思った――それくらいが、ちょうどいいタイミングだろう。
                  


                  70楼2009-07-12 21:53
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                       羽川もそう思っているはずだ。
                       空気の読めない奴ではあるまい。
                    「阿良々木くん。携帯《けいたい》、持ってる?」
                    「そりゃ、携帯くらいは」
                    「贷して?」
                       そう言って、手を差し出す。
                       どういうつもりなのかはわからないが、とりあえず、仆は言われるがままに、ポケットから携帯电话を取り出して、羽川に手渡した。
                    「あれ。新しい机种だね」
                    「こないだ机种変したところなんだ。二年ぶりに新しくしたら复雑な机能が随分と増えていて、持て余してるよ」
                    「若いのに情けないこと言わないの。今からそんなことじゃ、大人になったらもっと文明に取り残されちゃうよ。今やデジタルに弱いと、日常生活さえ満足に送れないんだから」
                    「そうなったら仕方ない、山にでもこもるさ。そして文明が灭《ほろ》びた顷、またこの町に戻ってくるよ」
                    「いつまで生きる気なのよ」
                       不死身ですか、と羽川は呆《あき》れたように言って。
                       そう言うや否《いな》や、羽川はその携帯をいじり出した。
                       委员长の中の委员长、絵に描いたような优等生と言えど、そこはさすがに女子高生、打键《だけん》がめちゃくちゃ速い。
                       别に见られて困るような个人情报は含まれていないけれど……人の携帯を胜手にいじるなよ。
                       それとも、ひょっとして、スカートがめくれた际《さい》、こっそり仆が携帯电话のカメラ机能で撮影していたのではないかと疑《うたが》っているのだろうか?
                       だとすれば大いに调べて欲しい。
                       そんな不名誉な疑いは払拭《ふっしょく》しておきたい。
                       つーか、女子は色々、気にするところが多くて大変だなあ。これが男子だったら、たとえズボンのチャックが开いていたところで、セクシーコマンドーだって言い张れば通るもんなあ。
                       ……通るか?
                    「ありがと。はい、返す」
                       すぐに羽川は、仆の手に携帯を戻してきた。
                    「そんな画像はなかっただろ?」
                       仆が言うと、羽川は、
                    「え?」
                       と、首を倾《かし》げた。
                    「画像って?」
                    「……いや」
                       あれ。
                       読み违えたか。
                       じゃあ一体、彼女は何をしていたのだ?
                       怪讶《けげん》そうな思いがそのまま羽川に伝わったのだろう、羽川は仆が手にしたままポケットに戻すに戻せずにいる携帯电话を指さして、言った。
                    「私の番号とメルアド、登录しといたから」
                    「はい?」
                    「ざーんねん。友达、できちゃったね」
                       そうして。
                       羽川は、仆に何かを言われる前にとばかりに、横断歩道を駆け足で渡って行った――信号はいつの间にか、青に変わっていたのだ。
                       仆のほうがそうやって别れるつもりだったのに、先を越されてしまった感じだ――あれ?   図书馆に行くのではなかったのか?   いや、仆と话している内に図书馆に行くことに决めたらしかったから――最初と方向が逆になっても不思议ではないか。
                       渡りきったところで振り向いて、「じゃあね」と手を振る羽川。
                       反射的にそれに応《こた》えてしまう。
                       仆が(多分、马鹿みたいに)手を振るのを确认してから、羽川は踵《きびす》を返して、校门を直前に右に折れ、机嫌よさそうに歩いていった――すぐに角を曲がって行って、彼女のその后ろ姿は见えなくなった。
                       それを确认してから、仆は携帯电话を确认する。
                       果たして、本当に。
                       アドレス帐には、『羽川翼』が登录されていた。
                       携帯番号、メールアドレス。
                       仆はアドレス帐の机能を一切使っていなかった。必要な电话番号はすべて覚えている――と言っても、これは记忆力自慢ではない。せいぜい覚えているのは自宅と両亲の携帯电话くらいのものなのだから、自慢になるわけもない。それ以外の番号にしたって着信履歴?発信履歴で十分に対応できるのだ。
                       ただ、友达が少ないだけである。
                       だから。
                       この『羽川翼』が、この携帯电话に登录された、最初の电话番号となった。
                    「なんだあいつ……?」
                       行动が――仆の理解を超えている。
                       友达?
                       友达だって?
                       本気で言っているのか?
                       大体、名前くらいは知っていたとは言え、初めて话すに等しい男子に対して、こんなあっさり连络先を教えてしまうのは、年顷の女子としてどうなんだ――いや、これについては仆の感性が古いだけだろうか?
                       わからない。
                       しかし――わからないなりに、わかったことが、ひとつだけ、ある。
                       羽川翼。
                       优等生の中の优等生――委员长の中の委员长。
                       お高くとまっているキャラクター、どころか――
                    「……すっげえ、いい奴じゃん」
                       委员长の中の委员长。
                       羽川翼。
                       终业式の午后にこんな风にすれ违った彼女と、仆はこの少しあと――春休みの最中に会うことになるのだが、しかしそんなことはこの时点ではわかるわけもなかった。
                       予感めいたものさえ。
                       まるで感じていなかった。


                    71楼2009-07-12 21:53
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                      - -b
                      你看得懂?。。


                      72楼2009-07-12 22:43
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                        男猪的体重杯具了


                        IP属地:江苏73楼2009-07-12 22:44
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                          恩...OOXX的时候会压坏战场原SAMA的...


                          74楼2009-07-12 22:46
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                            我已经顶了好几帖了 为什么还不能加入啊


                            IP属地:江苏75楼2009-07-13 08:33
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                              度娘要抽2天才能加= =
                              我加的时候抽了三天。。


                              76楼2009-07-13 09:13
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